section05:
駒を指す手だけで、誰だかわかる(来生)
来生:NHK-BSで将棋の放送が始まった当初は、そんなに番組の種類がないから、10時間ぐらい放送していましたよね。
島:すごく長かったですよね。僕も、憶えています。
来生:ずっと静止画像で。
島:変でしたよね。
来生:いや、それがまた面白くて。静止画像をずっと見ていたりしましたよ(笑)。最近は放送が少なくなっちゃいましたね。
島:そうですね。しかも、良いところを映さない場合がありますよね。
来生:1時間ぐらい放送して、国会とかがあると、中断しちゃう。終盤の、一番良いところが放送されなかったりするんですよね。夜中にダイジェストで紹介するけど、15分ぐらいですね。
島:野球で言えば、1回、2回を放送して、5回を放送して、あとは……っていう感じです。
来生:寂しくなっちゃいました。昔は、本当にすごかったんですよね。9時から12時まで放送して、次は3時から6時まで。で、また8時からとか。
島:解説を担当した時は、あまりに長くて気が変になりました(笑)。進まないんですよ。1時間や2時間の長考が入ると、しゃべることがない。
小松:以前、松島かどこかでコンサートがあった時、翌日に将棋の対局があるから、9時に起こしてくれって、来生さんに言われたんです。で、9時にモーニング・コールを入れたんですけど、お昼前ぐらいに電話がかかってきて、ご飯を食べにいった。その時、「将棋はどうだったんですか?」って聞いたら、「まだ2手か3手しか進んでいない」って(笑)。その間、ずっと見ているんですよ、来生さん。
島:すごいですね。いや、すごいです。
小松:僕にしてみれば、意味がわからない(笑)。
来生:(笑)
島:まあ、静止画面の場面もありますけど、対局者も時々映りますから、それは結構面白いですよ。椎名さんも、すごく対局者のことを見ていて、指し手のことよりも、そういう描写をされる時も多いですよね。
椎名:結構、動きはあるんですよ。
来生:テレビだと、将棋盤を上から撮っていて、駒を指す手だけが映るじゃないですか。僕は、何人かは、手だけでわかるんですよ。
島:誰だかわかるんですね?
来生:島さんなんかは、すぐわかる。
島:それは光栄です。すごいですよね、それも。
来生:内藤さん(内藤國雄・九段)とか、加藤(加藤一二三・九段)さんとか……島さんも独特でしょ。有吉さん(有吉道夫・九段)みたいな感じで、指した後、何度か独特の仕草をする。
島:まあ、癖がありますね。我々も、指だけを見て、仲間の手はだいたいわかるんですよ。ただ、1手だけじゃわからない時はありますね。何手か指しているうちに、「あ、これは誰だ」ってわかるようになる。
来生:羽生さんは、斜めから打つんだよね。内藤さんなんかは、すごいよね。パシっと。加藤さんもすごい。
島:加藤先生は、指でわかりますね。肉厚な指で。
小松:タイトル戦っていうのは、年間、どのくらいあるんですか?
島:棋戦は10個ぐらい?
椎名:棋戦は10から11個ぐらいありますね。その内、タイトル戦は7つです。NHK杯なんかは、タイトルではないですけど、棋戦です。
小松:羽生さんが、一番タイトルを持っていた時って?
椎名:七冠、全部持っていたことがあるんですよ。
小松:全部ですか? そういう人は、今まで羽生さんだけですか?
島:そうですね。
小松:今は、羽生さんは何冠なんですか?
椎名:四冠です。
小松:タイトル戦って、平行してやっていますよね? 今日は名人戦で誰かと戦って、何日か後には他のタイトル戦で別の人とやらなくてはいけない……すごく大変ですよね。
来生:年間、80局ぐらい指すんじゃないですか?
島:そうですね、羽生さんだと、それぐらい指すことはありますね。しかも、1局が長いですから。
来生:一般的には、年間30局ぐらいですか?
島:35局ぐらいだと思います。
来生:数字だけ聞くと、少ない感じがするけど……。
小松:1局は1日ぐらいかかるんですよね?単純計算すると、1ヶ月働いて、11ヶ月は休むみたいな(笑)。そういうわけには、いかないと思いますけど。
島:まあ、自由時間は多い仕事ですね。
小松:対局する時って、前日にはホテルに入るわけですよね。
椎名:そうです。タイトル戦が2日制で行われる場合、前の日に入って、終わった次の日に出るので、4日間は拘束されます。だから、羽生さんなんかは、きついでしょうね。今回の名人戦は、7局目まで行ってしまったので、羽生さんは今、名人戦で28日間拘束されているわけです。1月ぐらい拘束されて戦っている。ですから、羽生さんは、この名人戦が持将棋になって、後日指し直しになった場合、対局日の調整がつかないらしいです。棋聖戦ですとか、王位戦も入ってくるので。
来生:羽生さんって、どうなんですか? 真面目?
島:もう、驚くべき人ですね。
来生:驚くほど、真面目?
島:真面目ですし、驚くほど頭がいい。最先端の将棋を指していますし。同じ棋士から見ても、どういう勉強法をしているのか理解できないということが、しばしばですね。
来生:性格は?
島:非常に穏やかというか。将棋界のことも、若手のリーダーとして引っ張ってくれていますし。羽生さんに支えられている面が大きいですね。ああいう人がトップにいると、すごく安心なんですよ。自分たちのトップが、どこに出しても素晴らしいというのは。将棋だけ強くても、人間がどうしようもないっていう場合は、やっぱり困ります。その世界が衰退すると思うんですよ。だから、今は、非常にうまくいっていると思いますね。
来生:山田道美さん(故・山田道美・九段)なんかは、打倒大山さん(故・大山康晴・十五世名人)ってことで、他のことは一切拒否みたいな感じだったけど。
島:あの時代は、破滅型の棋士がキャラクターとして受け入れられるという、日本社会の土壌がありましたけどね。今は、やっぱり、どの世界も……。
来生:そうですね。麻雀の世界でも、そういう無頼派みたいな人が少なくなって、結構、真面目な青年みたいな人が打っていますよね。