デビュー30周年 オフィシャルサイト特別企画第3回 岸田 秀

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section01:
岸田さんの本を読んで、目からウロコが落ちました(来生)
来生:今、岸田さんは和光大学にいらっしゃるんですか?
岸田:2年前に70歳で定年になりましたので、今は何も仕事をしていなくて暇です。
来生:お会いできて光栄なんですが、話が続くかどうか不安で。失礼なことを言ってしまうかもしれませんが、ご勘弁願います(笑)。
岸田:そんなこと、なんで気にするんですか。
来生:プライベートな話をしても構いませんか?
岸田:構いませんよ。
来生:お子様は?
岸田:いないんです。
来生:結婚はいつ頃?
岸田:27歳の時ですね。
来生:今回も、僕が直接お電話したんですが、お電話に出られた方が奥様ですか?
岸田:そうです。
来生:ダメモトでお電話したから、「いいですよ」というお返事をいただいて驚きました。当然、僕のことはご存知ないだろうと思っていましたから。
岸田:ええ。音痴で、あまり音楽を聴きませんから。
来生:岸田さんは個性的だから、ファンの方も多いと思いますけど、そうでないというか、岸田さんのおっしゃることを否定する人もいますよね?過去に嫌な思いをしたこともあるんじゃないですか?
岸田:そうですね。大学に怒鳴り込んで来られたり(笑)、悪口を書いた手紙もよく来ますよ。
来生:岸田さんは、幻想という言葉を使われますよね。僕もそうなんですけど、一般の人は、この現実が「ちょっと変だな」と思っても、そんなに深くは考えない。脳と言葉と目で認識している世界が本当の現実だろうと思って生きているのに、それが幻想だと言われても困ってしまう。僕は、度々、コンサートで岸田さんの話をしているんですけど、僕のファンの方には、やっぱり分かりにくいみたいで。今日の対談で、少しでもファンの人にわかっていただけたらな、と思っています。僕は今、55歳なんですけど、35歳の時に岸田さんの本に出会ったんです。その頃突然、宗教に関心を持って。関心と言っても、入信するということではなく、むしろ逆で、「人間というのは、どうして宗教に入信しちゃうんだろう」という不思議さだったんです。日本人は特に、他の国のように絶対的な神がいない。僕も平々凡々に、普通のサラリーマン家庭で育っていますから、宗教にはほとんど無縁でした。それで、最初に読んだのは「仏教と精神分析」という本なんです。
岸田:三枝さん(三枝充悳氏)との対談ですね。
来生:そうです。三枝さんの宗教の話は、わからない部分が多かったんですけど、その後、岸田さんの精神分析の話があって「これはちょっと面白そうだな」って。それで、次に岸田さんの「ものぐさ精神分析」と「二番煎じものぐさ精神分析」を買いました。
岸田:「ものぐさ精神分析」は僕が出した最初の本ですね。
来生:僕は、その時まで存じ上げなかったんですけど、結構、売れていたんですよね。
岸田:ええ。文庫版も入れると50万部ぐらい売れているようです。今も毎年増刷されています。
来生:当時、テレビにもお出になったりしたんですか?
岸田:色々と話があって、昔、何回か出ましたけどね。
来生:でも、岸田さんのお考えって、なかなかテレビでは言えないことが多いんじゃないですか?
岸田:そうですね。やっぱり、あまり伝わらないですね。それに、テレビって、一回画面に出ても、すぐに消えちゃうから虚しいですしね。テレビに出ると、顔だけが売れて、新宿あたりを歩いていても、知らない人が声をかけてくる。あれが気持ち悪くて(笑)、もう、原則としては、テレビに出ないことにしています。
来生:僕は、その2冊を読んで衝撃を受けたんですよ。「目からうろこが落ちる」って、こういうことだと。人間って、そもそも、そんなに素晴らしい生き物なんだろうか、社会も、こんなに煩雑でややこしいし、「なんか、変だよな」っていうのは、ずっと思っていたんですけど、言葉では言えなくて。岸田さんの本に、その答えがあったような気がしたんです。
岸田:僕は、まったく自信がなくて、「こんなにわかりきった、当たり前のことを書いて、本になるのか」って、編集者に何度も確かめたくらいです。「こんなもので面白いのかな」という疑問を持っていたんですけど、編集者は「面白い」って言う。でも、本が出たら、えらく売れたんですよね。
来生:コロンブスの卵っていう印象なんですよ。みんな、わかっていると思うんだけど、はっきりとはわからない。そこに、ポーンと岸田さんの回答があって、楽になったと言うか。
岸田:そういうことは、よく言われたんですが、なぜそう言われるのかは、僕自身はわからなかったんです。正直なところ。
来生:岸田さんの本を読んだら、宗教に入信する人は減るだろうな、と思いましたよ。
岸田:そんなことはないでしょう。
来生:犯罪者も減るだろうし、戦争も減る。自殺も減ると。
岸田:そんな効果はないと思うけど(笑)。
来生:僕は、幼稚園に入る時に、すごく抵抗したんです。
岸田:幼稚園に行きたくなかったんですか?
来生:子供心に「なんで幼稚園に行かなくちゃいけないんだろう」って思ったんです。その後も、小学、中学、高校、そして大学から社会に出て労働をするまで、心の片隅で、いつも思ってました。起きたくないのに起きて、行きたくないのに学校に行って、やりたくないことをやって。こういう社会って、いったい、なんなんだろうって。
岸田:そういうことは、感じる人と感じない人がいますね。僕も、来生さんと同じで、そういうことを感じる人でしたよ。言ってみれば、世間とずれている一種の精神障害者なんですよ。
来生:岸田さんが、フロイトにのめりこんでいった経緯は、本で読ませていただいたんですけど、ものすごいですよね。
岸田:母との関係というのがもつれていましたからね。現実感が薄いっていうか。自分が、現実感が薄いということは、最初はわからなかったんですよ。でも、みんなが現実だと思っているものを、現実だと認識できないということがよくあるんですよ。現実感覚能力に障害があるんだと思います。本にも書いていますけど、オートバイに乗っていた時、女の子が前を横切ったんですよ。まだ距離があったから、ブレーキをかけるか、ちょっとハンドルを切れば、どうっていうことないんだけど、そのまま行って、ぶつかってしまった。たいした怪我じゃなかったんだけど。女の子がオートバイの前を通っている現実を、現実と認識するまでに時間がかかるんです。
来生:(笑)
岸田:そういうことは、他にもあって。色々と本にも書いていますけど、人が僕のものを勝手に持ち去ろうとしているのを、ポカンと見ていたりしましたね。そういう感じで、現実を認識するまでに時間がかかるんです。
来生:それは、昔から?
岸田:子供の時からです。だから、僕は「この世界は幻想だ」と言っていますけど、それは自分の感覚を言っているだけのことで、理論的に考えてそういう結論に達したのではありません。
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section02:母性愛の神話がなければ、子供は育てられない(岸田)
introduction:【今回のお相手】