section02:
母性愛の神話がなければ、子供は育てられない(岸田)
来生:僕は、本能を盲目的な衝動だと捉えていたんですが、実はそうではなく、きちんとした行動形式を示唆するものなんですよね。
岸田:そうですね。盲目的衝動をもっているのは人間だけです。人間以外の生き物は本能で生きていて、ちゃんとやっているわけです。もし動物の本能が盲目的衝動だったら、とっくに不適応になって滅亡していますよ。
来生:人間以外のものって、生まれた時から完成されていて、色々なことが、しっかりとプログラムされている。教えてもらわなくても、世界に適応できている。人間の場合、1800グラム以下の赤ちゃんが未熟児とされていて、例えば3000グラムの赤ちゃんが生まれた場合、看護婦さんは「3000グラムの立派なお子さんですよ」と言うけれど、3000グラムで生まれてこようが、まったくの未熟児なんですよね。
岸田:そうですよ。
来生:人間は、まったく未発達なまま産み落とされるんですよね。本来、地球で生きて行く上での行動形式、備わっているべき本能が、まったくプログラムされないまま放り出される。
岸田:人間の本能は、未発達というより壊れるんですね。
来生:何もわからないし、何も出来ない。
岸田:盲目的な衝動は、人間の壊れた本能のことであって、他の動物にはないわけです。
来生:人間と同じ哺乳類でも、他の動物は、生まれてすぐに歩くこともできるし、食べることもできる。でも、人間は本能のエネルギーと……
岸田:行動パターンの両方の要素のうち、行動のパターンが壊れているんです。
来生:エネルギーはあるんですか?
岸田:それがないと、人間だって生きられませんから。
来生:口に入れるエネルギーはあるんですよね。
岸田:ありますね。空腹感はありますから、何かが欲しいわけです。
来生:そうすると、食べられないものでも、何でも食べちゃう。でも、動物というのは、誰からも教えてもらわなくても、食べられるもの、食べられないものがわかっているんですよね。
岸田:鳥だって、親が餌を運んできて、しばらく雛を育てますよね。面倒を見ることが必要なわけです。それも、本能で決まっている。人間は、それが決まっていないからね。
来生:赤ちゃんを育てるのは大変ですよね。
岸田:他の動物の子育てと比べると、本当に大変だと思います。
来生:子供を育てるのは社会的なことですけど、男のエゴで、うまく産んだ女性の方に育児を向けている。そのために、母性が必要なんじゃないかな、と。
岸田:そうですね。人間の母親に子育てをさせるためには、母性愛という幻想が必要なんですね。
来生:岸田さんは、人間には、元々母性がないとおっしゃっていますよね。もちろん、父性もない。
岸田:人間の母親は、母性愛の神話がなければ、子供は育てられませんから。
来生:よく、凶悪な事件が起こると、「人間のやることではない」と言われますけど。
岸田:それこそ人間の大いなる己惚れで、動物は、人間がやるような凶悪なことは、そもそもやらないですね。
来生:そうですよね。人間だからやるんですよね。
岸田:「そんなことをするのは人間じゃない。犬畜生だ」と非難するのは、犬畜生に濡れ衣を着せているわけで、犬畜生に失礼です(笑)。