section04:
「みんなが同じようになれば平和になる」という考え方は非常に危ない(岸田)
来生:今も、世界で戦争が絶えませんけど、岸田さんの言う「真理なんてないんだよ」ということを、ちゃんと理解していれば、すごく平和になると思うんです。
岸田:そう思うんですけど、うまくはいきませんね。アメリカという国が、日本と戦争をした後、朝鮮やベトナムでも戦争して、今はイラクで戦っている。今のイラク戦争というのは、アメリカという国家の構造から説明できると思うんです。精神分析の理論でアメリカがなぜ戦争したがるかを説明したんですけどね。そのことを書いた本の英訳が出たんですが、全然、反響がありません。
来生:アメリカ人は認めないんじゃないですか? 賢明な人は認めると思いますけど。
岸田:仮に認めたら、イラクなんかには行かないと思うんですけど。アメリカという国家が成り立つためには、対外戦争をやっていることが必要なんですね。だから、僕が本を書いて「そんなことは、アホらしい」と言ったからって、アメリカ国民が納得するわけはないんです。
来生:戦争が正義になっていますね。
岸田:正義が必要なんです。
来生:正当化ということですか?
岸田:正当化なんですけどね。それが正当化であると認めると、アメリカ国家の基盤がつぶれますから。大変な問題になる。認めない以上は、イラクで戦っていなければならない。
来生:別の側面から見ると、「悪いことをする国があるから、それを我がアメリカが……」という意識がありますよね。
岸田:ありますね。まったく、はた迷惑なんですけどね。
来生:僕は、ある部分で良い面もある気がするんですけど。世界の警察として。ところで、拉致問題には関心はありますか?
岸田:北朝鮮に、拉致をした現実的な効用は何もないと思います。日本人を拉致してみたかっただけなんですよ。昔、朝鮮人が強制連行されたから、その復讐をしているんですかねえ。しかし、まったく、北朝鮮の国益にはなっていない。拉致したことによって、逆に大損をしているとしか思えないですね。こういうことがなかったら、日本も北朝鮮と友好的な関係になって、経済援助もしたかもしれない。
来生:本当のところ、日本政府も、拉致問題をあまり表沙汰にしたくなかったんでしょうか。
岸田:そうですね。社会党とか、外務省とかはね。
来生:キム・ジョンイルは絶対に認めないでしょうね。認めたら大変なことになる。一部の軍部の人間が勝手にやったんだという理由で、五人は帰したけれど、それ以上は無理ですよね。
岸田:計算違いをしたんでしょう。大したことではないと思っていたんじゃないですかねえ。一応は謝罪して五人帰したわけで、それで収まると思ったら、日本国民が怒ってしまった。
来生:日本は、怒っても手を出すことはできませんよね。アメリカが助けてくれるのかと言うと、韓国や中国が絶対に反対するでしょうし。
岸田:アメリカは日本を助けないですよ。そんな馬鹿なことは、するわけがない。もし、核戦争になったとして、例えば中国は、一千万人や二千万人ぐらい殺されたって平気ですよ。ところが、アメリカは、10万人殺されたらビビルでしょう。だから、アメリカは、軍事能力的にダントツですけど、核戦争になって、どちらが弱いかと言えば、アメリカの方が弱い。アメリカは中国と核戦争をしたくないですよ。そういう意味で負けますから。例えば北朝鮮が核を搭載したテポドンを日本に向けて撃ってきて、アメリカが安保条約に基づいて反撃しようとしたとしても、北朝鮮の背後に中国がいれば、アメリカは負けますからね。自分の国民を危険にさらしてまで、日本を守ることはないでしょう。
来生:そうですよね。
岸田:だから、日本としては、隠忍自重するか、核兵器を持つか、どちらかですよ。はっきり言えばね。でも、日本国民には核アレルギーがあるから、核兵器を持つというと、国民的な合意を得るのが難しいでしょうね。アメリカは、日本を守るというより、日本がアメリカに敵対するのを防ぐという感じですね。アメリカは、日本に原爆を落としたことで、もし、日本が核能力を持てば、アメリカに復讐するんじゃないか、という恐れを持っている。それを防ぐために、アメリカ軍が日本に駐留しているわけで。日本を守るためじゃないですから。
来生:北朝鮮は、植民地化したことに対して、いまだに恨みを持っているようですけど、日本は、あまり言いませんよね。忘れるというか。
岸田:水に流すというか。
来生:逆に言うと、節操がない方がうまくやっていけるんじゃないでしょうか。世界が全部、日本のような民族だったら……。
岸田:みんな、そう思っているんですよ。昔、キリスト教の宣教師は、すべての人がキリスト教徒になれば平和な理想の世界が実現すると思っていた。それで、キリスト教徒でない先住民を大虐殺したわけです。ソ連時代には、世界が全部共産化すれば、戦争がなくなって平和になる、アメリカはアメリカで、人類が全員アメリカ人のように自由民主主義者になれば、と思っている。色々な人が、みんなが自分と同じようになれば平和になると言うわけですけど、「自分と同じような」というのが、それぞれ違うから戦争になるんです。だから、「みんなが同じようになれば平和になる」という考え方は、非常に危ない。日本人みたいに、お互いに譲り合って、恨みを水に流せば平和になるというのは、勘違いなんです。そうするためには、自分と同じでない人を自分と同じような人に変えなくてはならない。それは、イスラム教徒に「アラーを捨てろ」というようなものですから。それは自分と同じでない人々を皆殺しにするということです。