「枚挙に暇がない」
昨年のサッカーワールドカップで「三苫(みとま)の1ミリ」が話題をよんで一躍三苫選手の名が世界に知られた。
「あっ、三つの苫小牧のとまで「みとま」なんだ、めずらしい名前だな、三苫か、三苫ねェ。」で、その時「枚挙に暇(いとま)がない」の慣用句がふと思い浮かんで、それをもじって「枚挙にみとまがない」なんて言ってみた。
別におもしろくもなんでもないので、ひとには言わなかったが、それでもそれから三苫選手の名をみるたびについつい「枚挙にみとまがない」が思い浮かびひとりで言っていた。
で、最近知人と話している時に、「三苫の1ミリ」の話になって、ふとここで「枚挙にみとまがない」と言ったら、相手はどう反応するかと思い、「あれからの三苫の活躍はすごいね、今月のはじめにも、二試合連続ゴールを放ったりして、もうまさに『枚挙にみとまがない』ね」と言ってみたら、なんの反応もなかった。
やはり言わなければよかったなと思いつつ、でも、もしかしたら普段あまり使うことばではないので、相手は気づかずに、そのまま受けとめたのかもしれないなとも思ったが、やはり言わなければよかったなと思い、すぐに違う話に切り替えた。
そのことで思い出した話があって、それは糸井重里氏と、南伸坊氏が上梓した「黄昏(たそがれ)」(雑誌発行物)の中での会話で、
糸井:こないだ永ちゃんこと、矢沢永吉さんと対談したんだよ。
そしたら永ちゃんが「オレのステージの中で、史上最高のデキがよかったのは、千葉県の銚子でやったライブだ」っていうわけ。
南 :「ちょうし」ね。
糸井:「ちょうし」だよ。銚子だけに調子がよかったんだよ。それしかないよ。
南 :それしかないねェ。
糸井:なのに永ちゃんってそういうこと言わない人だからサ。
南 :言わなそうだねェ。
糸井:言わないどころか概念がないんだと思うよ。で、もう、ずっと「銚子」ってことばをくり返すんだけど、ちっとも「調子がいい」って言わない!
しかもサ、テーマが「最高にデキがよかったライブ」なんだよ?
「調子がいい」っていうのに、それ以上の状況ってないじゃない?ところが永ちゃんは、「(モノマネしながら)もう歌も動きもバッチリ決まるわけ」なんて言うんだ。「のどがサイコー」とかサ。
南 :「調子がいい」って言え!
糸井:「調子がいい」って言え!
南 :で、言ったの?
糸井:けっきょくオレが「調子がよかったんだねェ」って言ったんだ。
「2009年10月発行 黄昏 (ほぼ日ブックス)より」
この本は、うんちく雑談でうらやましく思った本です。
あとがきの故・赤瀬川原平さんの文章もすばらしい。
おすすめします。
それではご機嫌よう
来生たかお
※追伸 2月8日、作曲家、編曲家であるバート・バカラック氏が亡くなりました。94才でした。’60年代、’70年代、すばらしい作品を書き、挙げるとまさに「枚挙に暇がない」。
斬新で、アカデミックな作品が多く、小生にとっては、作曲の上でとても影響を受けたひとりでした。
「雨にぬれても」「ディス・ガイ」「I’ll Never Fall in Love Again」等々、今聴いても誠に素晴らしいですね。
小生はその中でも特に好きな楽曲は「Alfie」です。
すばらしいバラード曲で、いろいろなシンガーが歌ってますが、小生は⑨ヴァネッサ・ウィリアムスの「Alfie」が好きです。
因みに、小生の変拍子曲、「グッドラックマイガール」はバカラック氏の「何かいいことないか仔猫ちゃん」がモチーフになっています。謹んでご冥福をお祈り致します。
もう一つ追伸。
前回のコメントで、ワンチャンの名前をお伝えするのを忘れてました。申し分けないでした。
名前は「キスギ・ミミ」です。名字があります。よろしく。
元気すぎて、夜になるとかならず「クレイジータイム」があって部屋の中を走りまわってます。付き合うのが大変です。
来生たかお
(2023年2月・談)
※公開時、一部タイプミスがあり修正しております。ご指摘いただきありがとうございました。(スタッフ)